否認権行使の要件


こんばんは。


今日は,お客様が来られたり,外出したりも
ありましたが,事務所にいる際には担当している否認請求訴訟に
ついて検討しておりました。


否認権というのは,破産者が破産手続開始前に
行った債権者を害する行為の効力を否認して
破産者の元から出て行ってしまった財産の
取戻を行うための破産管財人の権利です。


否認権行使の要件として,
破産者の行為によって破産者の財産が減少したことが
必要になるとされています。


担当している事件では破産者が会社分割を行い,
その分割によって破産者名義であった不動産が
新設会社に移転したことを否認しようとして争っています。
このように会社分割によって移転した財産を否認権によって
取り戻そうとするにあたっては会社分割無効の訴えに
よらずに個々の財産の移転の効力を否定することができるのか
という問題もあるのですが,新会社法の立法担当者による
解説本に,「民法424条の詐害行為取消権によって
否定することができる。」とありますので性質・由来が同じ
否認権によることもできると考えるのが妥当だと思います。


で,今日1日悩んでいたのが,
「たしかに資産が新設会社に移っているが,
負債も同じだけ移っているのでトータルすると
破産者の財産が減少したとはいえない。」という
相手方の主張に対する反論です。
例えば,資産が1億円,負債が5000万円の会社が
あったとして,
会社分割によりその資産のうち3000万円が
新設会社に承継されたとしても,負債も3000万円
承継されていれば,元々の会社は資産7000万円,
負債2000万円となって3000万円の資産超過である
という分割会社の財務状況は変わらないのであり,
破産債権者を害する行為にならないのではないかというのです。
少々わかりづらいと思いますが。


たしかに破産法の教科書を見てみても
資産が減っても,その分負債が減ればトータルで
財産が減少したとは言えないとされています。


しかし,
資産超過の会社だからそう言えるのであって,
債務超過の会社の場合は同様のことが行われると
元々の会社に残された負債の債権者は弁済を
受けられる額が減ってしまいます。


即ち,上の例とは逆に資産5000万円,
負債が1億円の会社があったとして
会社分割により資産,負債がそれぞれ3000万円ずつ
新設会社に承継された場合を考えてみます。
この場合も会社分割の前と後で
5000万円の債務超過であるという
会社の財務状況に変化はないのですが,
会社分割前であれば債権者は自己の
債権の額面の2分の1の金額の弁済は受けられたのに対し,
会社分割後は資産2000万円,負債7000万円ですから,
自己の債権の額面の7分の2の金額の弁済しか
受けられないことになってしまいます。
これは明らかに債権者を害する行為に該当すると
思うのですがいかがでしょうか?


このように資産超過の会社の場合と
債務超過の会社の場合では異なる考え方を
しなければならないのではないかということを
裁判所に考えてもらおうと思っています。