エンドテナントの信託への請求を認めた判例

さて、1日飛ばしちゃいましたが、
例の信託に対するエンドテナントの保証金返還請求を
認めた最高裁判例を紹介します。


最判平成11年3月25日(最高裁裁判集民事192号607頁)です。


この判例は、元々の建物所有者兼賃貸人(A)が
賃貸借を継続したまま建物をBらに譲渡、
そのBらが上告人(Y)に信託譲渡、
ただし、Aから建物の賃借を受けていた被上告人(X)との賃貸借契約に
おける賃貸人たる地位は建物所有権に付随せず、
当初の賃貸人であるAが、Xからの賃借人である
Cから転貸を受けて、AX間の契約は転々貸借契約になっていた
という事例において、
Xの直接の契約の相手方であったAが破産したため、
Xとしては現在の所有者であるYが賃貸人たる地位を有することを
主張し保証金の返還請求を行った裁判で、
「特段の事情がない限り、賃貸人の地位もこれ(注 建物所有権の移転)に
伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する
権利義務関係も右第三者に承継される」としてXの請求を認めました。


この判例は、
賃借人であるXは、建物の所有権がA→Bら→Yに移ったということを
知らず、ずっとAが所有者であると信じており、自分は建物所有者から
賃貸を受けているものと考えていたという事例に関する判断です。


したがって、エンドテナントが「信託譲渡後は転貸借になること」、
「エンドテナントは物件の所有者である信託銀行には一切請求できない
こと」を確認するという文言が入れられる最近の証券化の事例においては
上記賃貸人の地位が移転しない特段の理由ありとして
(実際、上記判例でも藤井裁判官が同旨の反対意見を述べています。)
この判例の法理が適用されない可能性が高いと思われます。


ただ、ML業者から信託に納められる敷金は
結局エンドテナントがML業者に納めた敷金が充てられるので、
実質的にはMLが破綻したときにエンドテナントが信託に敷金返還請求
できてもよさそうなのですが。
個別の保全措置を認める信託銀行が現れるのを待つしか
ないのでしょうか。