敷引特約について

福岡地方、昨日くらいからめっきり暖かくなってまいりました。
「暑さ寒さも彼岸まで」と昔の人は見事に仰っております。


さて、昨日予告したとおり、敷引特約の有効性について
調べたところを書きたいと思います。


敷引特約とは、特に関西地方で多いということですが、
建物賃貸借の契約締結時に賃借人が契約に基づいて負うべき
債務の担保として賃貸人に預け入れる敷金のうち、
一定額については契約終了時に差し引いて賃借人に
返還することを予め合意しておくことをいいます。


で、この敷引については、賃借人に対して不当な負担を課し、
賃貸人を不当に利するものであり無効であるから、
本来返還されるべき敷金を賃借人に返還せよとして、
関西地方を中心に訴訟が多数提起されるようになりました。
特に平成13年4月以降、消費者契約法が施行されたこともあり、
一般の住居用の建物の賃貸借に関しては借り手優位が強まりましたので、
その動きが加速されました。


そして、特に平成17年、18年ころに、
「敷引特約は消費者契約法に反し、無効であると裁判所が判断した!」と
報道されて、敷引特約に対するアレルギーが強まっている状況です。


しかし、平成18年の大阪高裁の判決を見る限り、
同判決が問題にした敷引特約はたしかに無効であると
裁判所は判断していますが、
それ以上に敷引特約が一律無効であるなどとは決して判断して
おりませんので注意が必要です。


まず前提ですが、消費者契約法に反し無効であるといえるためには、
(1)民法が定めるよりも契約内容が消費者にとって
厳しい内容になっていること、
(2)それが信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に
害するものであること、
が必要になります。


そして、大阪高裁の平成18年7月26日判決が
全面的にその正当性を認めた
大阪地裁の平成18年2月28日判決は、
敷引特約が関西地方においては長年の慣行として
その存在が認識されており、一定の必要性、合理性を
有するものであるから、その趣旨を逸脱し、暴利行為と
認められる場合に限り、上記(2)の要件を充たすとしています。


そもそも暴利行為が民法で無効とされるのは当然ですから、
暴利行為でない「普通の」敷引特約は当然有効と判断している
ことになると思います。


この大阪高裁の事例においては、
保証金60万円に対して敷引額が50万円と約83%になり、
賃料の6ヶ月分以上にも及んでいるから暴利行為に該当し、
この事例における敷引特約は無効と判断して賃貸人に
敷引金の返還を命じています。
この「(この事例においては)敷引特約が無効となった。」
という一文の( )内がうまく報道されないので、
現在、裁判所は敷引特約を一切認めないのだという誤った認識が
流布してしまっているのだと思います。


敷引特約は、金額が過大でなく、明確にその趣旨と内容を
賃借人に説明したことが証明できれば、
消費者契約法が適用されても必ずしも無効とは判断されないと
考えています。